IDESコラム vol. 29「米国での身近なAMR対策」
感染症エクスプレス@厚労省 2018年11月22日
IDES養成プログラム3期生:髙橋 里枝子
こんにちは。IDES3期の髙橋里枝子です。私は現在、米国のCDC(Center for Disease Control and Prevention: 米国疾病予防管理センター)に派遣されています。感染症の専門家が集まるこのCDCに勤務することは、私の長年の憧れでした。今は、憧れた職場で、毎日、多くのことを学びながら、日本と米国の協力関係を築くことが出来るよう、リエゾン業務に従事しています。
CDCはBSL4施設と呼ばれる、厳密な安全管理が必要な病原体を扱う施設を所有しているため、入構のためには厳しい身上調査が必要です。一方で、施設外に出ると周囲はコンビニエンスストアやレストランが並んでおり、12時になると同僚と道を渡ってランチ休憩を取る人を多くみかけます。米国のコンビニのスケールの大きさにいつも驚かされますが、日本とは、規模だけではなく、内容も異なります。例えば、日本では処方箋が必要になる医療用医薬品も米国では一般用医薬品(OTC医薬品)として陳列され、品揃えも充実しています。
一般用医薬品が充実している理由として、薬局を併設しているコンビニが普及していることがあるかもしれません。この薬局併設型のコンビニには、薬剤師が駐在しており、薬剤についての相談や、処方箋の調剤が可能で、健康への意識の高い人にとっては、医療従事者に気軽に相談できる場として、まさにコンビニエンスなお店であると思います。先週のコラムでは英国の薬局での予防接種について紹介されていましたが、米国でも薬局を併設したコンビニでインフルエンザの予防接種を受けることが出来ます。甘いものが大好きな私は、よくコンビニで大きな袋入りのチョコレートを買うのですが、レジでチョコレートの会計をしながらインフルエンザの予防接種を勧められることがあります。英国と同様に米国の薬剤師もインフルエンザの予防において重要な役割を果たしていることが分かります。
また、インフルエンザに限らず、様々な医療の提供において薬剤師は大きな役割を果たしています。例えば、薬剤耐性(Antimicrobial resistance:AMR)対策においても、キーパーソンとして位置づけられています。
世界中で重要な課題となっているAMRですが、私は、CDC派遣中のミッションの一つに、このAMR対策について学び、日本でも応用できるプログラムについて模索する、という事を挙げています。これまで学んだ中で特に印象的だったのは、適正使用のプログラムにおいて、(1)薬剤師の役割が重要視されていることと、(2)医師を対象としたプログラムで行動科学を応用していることでした。多くの人がコンビニへ薬を取りに行くため、地域に根付いたコンビニで働いている薬剤師に、抗菌薬の適正使用の重要性を理解してもらうことで、来店者に対して、抗菌薬の適正使用を促してもらい、薬剤耐性菌を減らしていくという考え方です。また、処方箋を書く立場にある医師に対しては、啓発だけではなく、処方に至る心理を考慮したプログラムが実施されています。医師が抗菌薬を処方する理由は、AMRに対する知識が不足しているのではなく、患者が抗菌薬を希望しているのではないかという思い込みやプレッシャーがあるため、という研究結果があります。そのため、医師だけへの啓発だけではなく、医師と患者との「関係」に注目したプログラムにも重点が置かれており、患者が抗菌薬の適正使用について理解しているという前提で診察を開始できるよう、待合室に「私は抗菌薬が有効な時のみ処方します」と示したコミットメントポスターを掲示するなどの取り組みが行われています。
米国CDCでは11月12日の週を 「U.S. Antibiotic Awareness Week」とし、AMRの問題や適正使用の重要性について、オンラインセミナーやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通して啓発が行われました。日本では11月が「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定されており、AMRに関する普及啓発に係る取り組み等を実施しています。AMR対策においては、薬剤師や医師を含む医療関係者の参加が不可欠ですが、私たち一人ひとりのAMRに対する理解も重要です。まずは、抗菌薬に対する正しい知識を得ること、指示通りに内服すること、他人に渡さないことなどが、はじめの一歩です。有効な抗菌薬を未来でも使えるようにするための取り組み、このAMR対策推進月間を機に興味を持って頂けたら幸いです。
参考資料
・During U.S. #AntibioticAwareness Week, #BeAntibioticsAware and learn when #antibiotics are needed and when they’re not. http://bit.ly/2DtzCvp #USAAW18
CDCはBSL4施設と呼ばれる、厳密な安全管理が必要な病原体を扱う施設を所有しているため、入構のためには厳しい身上調査が必要です。一方で、施設外に出ると周囲はコンビニエンスストアやレストランが並んでおり、12時になると同僚と道を渡ってランチ休憩を取る人を多くみかけます。米国のコンビニのスケールの大きさにいつも驚かされますが、日本とは、規模だけではなく、内容も異なります。例えば、日本では処方箋が必要になる医療用医薬品も米国では一般用医薬品(OTC医薬品)として陳列され、品揃えも充実しています。
一般用医薬品が充実している理由として、薬局を併設しているコンビニが普及していることがあるかもしれません。この薬局併設型のコンビニには、薬剤師が駐在しており、薬剤についての相談や、処方箋の調剤が可能で、健康への意識の高い人にとっては、医療従事者に気軽に相談できる場として、まさにコンビニエンスなお店であると思います。先週のコラムでは英国の薬局での予防接種について紹介されていましたが、米国でも薬局を併設したコンビニでインフルエンザの予防接種を受けることが出来ます。甘いものが大好きな私は、よくコンビニで大きな袋入りのチョコレートを買うのですが、レジでチョコレートの会計をしながらインフルエンザの予防接種を勧められることがあります。英国と同様に米国の薬剤師もインフルエンザの予防において重要な役割を果たしていることが分かります。
また、インフルエンザに限らず、様々な医療の提供において薬剤師は大きな役割を果たしています。例えば、薬剤耐性(Antimicrobial resistance:AMR)対策においても、キーパーソンとして位置づけられています。
世界中で重要な課題となっているAMRですが、私は、CDC派遣中のミッションの一つに、このAMR対策について学び、日本でも応用できるプログラムについて模索する、という事を挙げています。これまで学んだ中で特に印象的だったのは、適正使用のプログラムにおいて、(1)薬剤師の役割が重要視されていることと、(2)医師を対象としたプログラムで行動科学を応用していることでした。多くの人がコンビニへ薬を取りに行くため、地域に根付いたコンビニで働いている薬剤師に、抗菌薬の適正使用の重要性を理解してもらうことで、来店者に対して、抗菌薬の適正使用を促してもらい、薬剤耐性菌を減らしていくという考え方です。また、処方箋を書く立場にある医師に対しては、啓発だけではなく、処方に至る心理を考慮したプログラムが実施されています。医師が抗菌薬を処方する理由は、AMRに対する知識が不足しているのではなく、患者が抗菌薬を希望しているのではないかという思い込みやプレッシャーがあるため、という研究結果があります。そのため、医師だけへの啓発だけではなく、医師と患者との「関係」に注目したプログラムにも重点が置かれており、患者が抗菌薬の適正使用について理解しているという前提で診察を開始できるよう、待合室に「私は抗菌薬が有効な時のみ処方します」と示したコミットメントポスターを掲示するなどの取り組みが行われています。
米国CDCでは11月12日の週を 「U.S. Antibiotic Awareness Week」とし、AMRの問題や適正使用の重要性について、オンラインセミナーやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通して啓発が行われました。日本では11月が「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定されており、AMRに関する普及啓発に係る取り組み等を実施しています。AMR対策においては、薬剤師や医師を含む医療関係者の参加が不可欠ですが、私たち一人ひとりのAMRに対する理解も重要です。まずは、抗菌薬に対する正しい知識を得ること、指示通りに内服すること、他人に渡さないことなどが、はじめの一歩です。有効な抗菌薬を未来でも使えるようにするための取り組み、このAMR対策推進月間を機に興味を持って頂けたら幸いです。
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・During U.S. #AntibioticAwareness Week, #BeAntibioticsAware and learn when #antibiotics are needed and when they’re not. http://bit.ly/2DtzCvp #USAAW18
●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
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